さすらいの太陽   

原作 藤川桂介   漫画 すずき真弓





若木書房 ティーンコミックス 全4巻

 週刊少女コミックに昭和45年8月から1年間連載された漫画です。アニメ開始は翌年の46年です。
 単行本は48年に全4巻で刊行されましたが、これが唯一の単行本化です。アニメはマニア度も高くファンが多いのに、原作はなかなか読むことのできない超レア本になってしまいました。復刻の要望が多い作品ですが、現在(2003年)に至っても復刊されていません。

 AKI は当時、小学館の学年誌で読んだ記憶があるのですが、勘違いでしょうか?アニメ化に合わせて連載されていたのかもしれません。

 金持ちを妬む看護婦、野原道子によって赤ん坊がすりかえられます。一人は金持ちの香田家へ、一人は貧乏な峰家へ。やがて二人の娘は成長して、互いに歌手をめざすライバルになるというお話です。

 すずき真弓は他に「ビューティフル!亜子」「赤い靴」「麻衣子」などの著書があります。すべて絶版なのでこれらも復刻してほしいです。
 特に「麻衣子」は出生の秘密をかかえ女優をめざす主人公など、ドラマチックな設定は「さすらいの太陽」に通じるものがあります。

 肝心の「さすらいの太陽」ですが、内容はモグベエがくわしく解説しています。参照してください。ただしネタバレがあるので注意してくださいね。v(。-_-。)v

 補足としてですが、のぞみのデビュー曲が当然「心のうた」ではなく「生きた愛した死んだ」という、安っぽい演歌も真っ青の、ド演歌風のタイトルがついていて笑えます。
 原作後半ではのぞみが「心のうた」を心臓疾患の少女に歌うシーンが一度だけあります。連載中にテレビアニメ化されたためのサービスでしょうか。

のぞみが「心のうた」を歌うシーン(第4巻より)

 あとアニメの最後に香田パパの誕生パーティーがあるのですが、なんと58歳ということが判明します。ということはのぞみが生まれたときは40歳、アニメでも白髪でとてもそんな若くは見えません。(爆)

 ちなみに藤川桂介が書いた小説版もあるそうです。内容は漫画、アニメと比べてどんなものなのでしょう。





モグベエ談

 「さすらいの太陽」は連載当時から作品名と設定くらいは知っていて、興味はあったのですがなぜかアニメは見ていませんでした。(知ったときには終わっていた?)

 19才のとき、再放送があって念願かなって見ることができたときは、ストーリーに引き込まれそれはもう夢中でした。感想は、一口で言うと「過酷!」。ここまで主人公がひどい目にあう少女漫画なんて・・・と非常に驚いたものです。

 でもAKIさんに、「原作はもっとひどいよ」と言われ、最近読んでみました。

 そうしたら、その違いの大きさにびっくり\(◎o◎)/!
 まず設定が違います。幼い頃養子に出された峰家の長男「ファニー」こと「尚(ひさし)」ですが、原作では何と香田家に引き取られていたのです!(アニメでは全くよその家だったため、ボクサー名は「ファニー香川」ではなく「ファニー森山」)
 つまり美紀と兄弟として育てられ、香田の父は真の息子として接し会社も継がせようとするのですが、血の繋がらない兄を美紀は嫌い、母も冷たく扱うので尚は物語の冒頭で家を出てしまいます。

 のぞみとファニーが早々と恋人同士になるのは同じですが、アニメでは物語の終盤近くで「兄妹?」と思い込みショックを受けるのに対し、原作では初期にファニーが、そしてのぞみも前半のうちに兄妹と知って苦しみます。

 そしてファニーが香田家の養子であるという設定ゆえにのぞみと香田の父母はのぞみと接する機会が多く、特に父とのぞみは互いに「娘のような愛しさを感じる」「まるで父さんみたい」と不思議なあたたかみを感じます。(アニメでも初期に一度そういう描写がありましたが)


 一方美紀は、2巻のはじめの方で野原道子によって出生の秘密を聞かされ、これが他人に知れたら今の生活もスターの座も両親の愛も失うと思い、苦しみます。
 しかしアニメ同様性格が悪く、のぞみへの嫌がらせも下手をすれば死んでしまうかもしれないことを命じるなど極端で、同情する気にはなれません。


 それから登場人物も原作の方が多く、重要な形で主人公らに絡んできます。
 
 アニメではのぞみを愛する男性はファニーのみで、野原純(野原道子の弟)はのぞみを気に入ってはいますがそれほどの情熱は感じられません。出番も少なく私は20年のブランクの間に彼の存在を忘れていました。
 一方原作ではメインキャラのひとりで、のぞみを激しく愛し、姉との間の葛藤もあって非常に味のある人物です。根は良い人なのに悪いこともしてしまって苦しむあたり、妙に肩入れしたくなります。

 もうひとり、のぞみと同じく江川先生の弟子で「堤」というのぞみよりひとつ年下の歌手志望がいて、やはりのぞみに惚れて寝顔にキスまでしてしまうのですが、それをファニーに見られて大変なことになってしまいます。


 物語の鍵をにぎる野原道子は、物語の終始ずっと出張っていて、これでもかと言わんばかりにのぞみと美紀を翻弄します。それはもう「意地悪」などという範疇を超え、のぞみに大やけどをさせようとするわ、これからステージというときに塩酸は飲ませるわ、美紀をゆすって大金をせしめるわでこれはもう立派な犯罪です!挙句の果てに、のぞみを刺し殺そうとしたところを現行犯で逮捕されます。
 しかししたたかにも逃げ出し、最後はのぞみの幸せを邪魔するためだけにファニーの命まで奪ってしまうのですが、その方法が驚きです!
 破傷風菌の血清を運ぶパトカーに、盗んだ車を運転してぶつけるという自分の命すら顧みない手段で、彼女の執念の異常さを感じました。

 しかしのぞみは、姉のしたことを謝る野原純に、一度江ノ島の海で道子に助けられたことを持ち出し「あの人だって本当はいい人なのよ」「つらいことや悲しいことはたくさんあったけどけっして不幸だったとは思わない」と言って彼女を許します。それを知って刑務所の中で道子は、自分の敗北を認め泣くのです。

 
 ラスト、アニメは出生の秘密などがわかって美紀とその母は何となくのぞみに折れた形ですが、原作は、母は今までのぞみに冷たくしてきたことを後悔し悩む場面があります。

 そして美紀は深く傷つき、どん底に落ちてはじめてのぞみの心を理解します。すっかり気が弱くなっているところに純に「好きだ」と言われ(びっくり\(◎o◎)/!)、婚約までして心に余裕ができたのか、のぞみと心からの和解をします。
 その上、心配していた母の愛も変わらないことを知って「何も隠す必要はなかったんだわ。すぐに話せばよかったのよ・・・」と感動のシーン!(T^T)



 それから、特筆すべきはキャラクターの容姿がまったく違うこと!似ていると言えるのは香田の父だけで、他は別人です。(江川先生は少し似てるけど・・・)
 原作の絵は誰も彼も下ぶくれで、ファニーすら二枚目度が今ひとつです。また、貧しそうに見える人は誰もいません。
 でも、イメージ的に一番大きく違うのは何と言っても野原純です!!
 ここまで読んでくださった貴方だけにそっと教えますが(笑)、原作の彼はAKIさんによく似ています。(〃^∇^)ゞ「そっくり」というほどではないのですが、お風呂で洗髪した彼を見て「おおっ!野原純!!w(゚o゚)w 」と叫んでしまいました。(^^ゞ
(ちなみにAKI さんに似ている漫画・アニメキャラは他に知りません)



 そして、「アニメってこんなんだっけ?」という疑問がふつふつと沸き、全26話を見直してみました。
 すると・・・。
 20年前にはあれほど過激だと感じたストーリーが生ぬるく感じてしまったのです。

 野原道子は最初の方こそ嫌がらせをしますが、犯罪めいたことまではしません。しかもやがてすっかり出番がなくなってしまいます。
 ラストは記者会見で自分がふたりをすり変えたことを発表し警察に引っ張られますが、自分の過去を刑事さんに告白しただけで気が済んだのかあっさりと罪を認めてしまいます。

 アニメの中盤は「歌手ど根性もの」といった感じで、特殊な運命に翻弄されるというよりも歌手としての力をつけ、より歌の心を知るための修業をする、といった印象です。原作では「虎の穴」もビックリのとんでもない特訓場面がありましたが、アニメでは海女の特訓をして肺活量をつけるなど現実的です。歌の心も多方面から描き、歌手としての実力をつけていく、という過程についてはアニメの方が上出来のように感じました。
(個人的には美紀の曲「とべない小鳩」が非常に気に入っています。)


 しかしのぞみ以外の人物では葛藤の描き方が不充分だったり、和解が安易だったり、恋愛面が弱かったりと26話もある割には中身が薄くなっています。
 こうまで原作と違う理由は、やはり原作通りでは過酷すぎ、まだ「アニメは子供のもの」という風潮に合わなかったせいではないでしょうか?




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